借りぐらしのアリエッティ (2010) »ニュース

アニメ界の俊英、ヤマカンが語る“スタジオジブリの魅力”

山本 寛(アニメーション演出家)

『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』で熱狂的な支持を集める若きカリスマ・山本 寛が、最新作『借りぐらしのアリエッティ』が公開となったスタジオジブリの魅力について執筆。若きアニメーション演出家にとってジブリ作品、宮崎 駿とはどんな存在なのか。また、ジブリへの想いが生み出すジレンマとは? 先ごろ発売になったMOVIEぴあ「スタジオジブリ特集」に寄稿された原稿をロングバージョンでご紹介します。

アニメ界の俊英、ヤマカンが語る“スタジオジブリの魅力”

スタジオジブリの呪縛〜私とジブリの四半世紀


昨年夏、ひょんなことから悲願中の悲願、憧れ中の憧れ、夢のまた夢である「スタジオジブリに訪問する」という夢が叶ってしまった。正直もう俺死ぬんじゃないかと思ったが幸いまだ生きている。スタジオに足を踏み入れた時のあの緊張感は今も忘れない。そこはアニメスタジオだとは思えないほどの光溢れる、森厳さすら漂う場所だった。天竺よりも遠い地に来た気がした。

……とは言うものの、作画フロアを見学させてもらうと、さすがに見慣れた風景が広がった。透視台付きの作画机がびっしりと並び、その机と棚に紙をびっしり詰めて皆さん作業しておられる。……あれ? どれも某社製の白い机ではなくて、木目もそのままのブラウン色の机だ(実は12年前、私に初めてあてがわれた机もこのタイプだった)。今どき珍しいな、まだ作っている会社あるのかな……と気になり、案内していただいた秘書(?)の方に「この机はどこで発注しているんですか?」と質問したその刹那、バルコニーの方から眩しい光が近づいてきた。視覚に入る前からそのオーラで解った。もちろん横目のチラ見だけでも見間違えようがない。わが心の師、宮崎駿御大だ。

私は瞬時に石となった。駄目だ。普段はアニメとなれば御意見無用の傍若無人で知ったかぶりな出鱈目を挑発的に騙っている私だが、この人だけには敵わない。
 
秘書(?)の方は御大に私のことを「映画監督の山本さんです」と紹介してくれた(そう、私は何を隠そう、『借りぐらしのアリエッティ』と奇しくも同じ7月17日公開の映画『私の優しくない先輩』の監督なのですよ!)。……え、待ってどういうこと? 俺「映画監督」扱いになるの? そして秘書(?)の方は(この方はもちろん私の素性を知っている)続けて「山本さんがこの机の発注先を知りたがっている」と告げてくれた。

そうすると御大、突如目をキラキラ輝かせて、そうかいそうかい、チミにはこんな形の机珍しかろう、とばかりに、なんと日本動画(東映アニメーションの前身)時代にまで遡って「動画机史」を語り始めたではないか! すわ、これじゃあまるで俺は動画机を見たことのない若手実写映画監督扱いじゃないか! オーノーなんてこったい! 違うんですよ先生! 貴方の目の前にいるのは、20年以上もの間貴方の背中を追いかけ続けて気付けばなんか随分脇道にそれて今や泥沼の中でもがき苦しむ惨めなアニオタ崩れのアニメ演出家なのですよ!

……なんてことはもちろん言えずに「へぇ、そうなんですかぁー」と完全に若手実写監督のフリをして御大の「机の配置と作業効率」の話に聞き入った(そんなことくらい我が社でもちゃんと考えとるわい!)。

やはりジブリは私にとって憧れ、無闇に立ち入ってはならない場所なのだと確信した。

中学一年から二年に向けての春休み(だったはず)に私がTVをつけて偶然OAされていた『天空の城ラピュタ』。

これが私の人生を変えた。

本当に大袈裟な表現ではなく、それからは宮崎駿の背中を必死に追い続けた20数年だった。彼に一歩でも追いつこうと、無我夢中で走り続けた(そのせいで今迷子になっているのだが)。

しかしそれは、このアニメ業界全体に言えることなのでもないだろうか。

本人は「自分は先人の遺産を継承しただけのこと」と謙遜するが、やはり日本アニメのこの50年を作り上げたのは、宮崎駿を代表とした彼らの世代(高畑勲、大塚康生、それから小田部羊一も忘れてはなるまい)に他ならない。更には「スタジオジブリ」が設立されてからの25年、この四半世紀で今のアニメの地位がここまで向上し、確立されたのは、誰もが認めるところであろう。

それに最大級の敬意を表しつつも、しかしながらこれからのジブリ、そしてこれからのアニメーション界に目を向けてみると、そうそう楽観的にはいられなくなる。

偉大な先人達も不死ではない。彼らがやがていなくなってしまった時のジブリとアニメ界を、今こそ真剣に考える時期に来ているのは事実だ。

もちろん私とて他人事ではなく、金魚のフンみたくジブリジブリとミーハー心を剥き出しにしている暇はない。自分に課せられた大命題として、ああでもないこうでもないとグチグチ考えてはいつもネットでスキャンダラスに批判される(そんなことはどうでもいいのだが)。

批判慣れついでに今回も正直に言ってしまうと、最新作の『借りぐらしのアリエッティ』、既に観させてもらったのだが、圧倒的なジブリの「不滅の伝統」と言ってもいいくらいの技術力の蓄積による「横綱相撲」を見せつけられた反面、えも言われぬ不安が残った。

米林宏昌は初監督であるし、いろいろな視点からこのジブリの「世代交代」を見守っていくべきなのだろうが、それにしても、圧倒的な表現力の裏に潜む、ある種去勢されたかのような、言わば「不滅の伝統」にしがみつき、そこから一歩も踏み外してはいけないかのような、そんな消極的で窮屈な制作者の態度を私は垣間見てしまった。

これでいいのだろうか? いいのかも知れない。しかし私は不安でたまらなくなった。

「伝統」の名の下に技術を確実に継承していく、それは芸術・芸能の分野で必要不可欠なことだ。しかし一方で、それが魂を失ったただの「様式美」に堕してしまわないよう、絶えず新しい息吹を吹き込んで、その形骸化を避けるのもまた必要不可欠な課題だ。

もう一度念を押しておくが、これは他人事ではない。私自身の問題として、ジブリとアニメの明日を模索しなければならない。それはつまりは、以上に書き連ねた私の文章を見ても解る通り、ジブリの「呪縛」から未だ逃れることのできない自分が、決然と一歩踏み出す、そこから始めなければならないことなのかも知れない。


COLUMN
ヤマカンの“my best”は『天空の城ラピュタ』

もはや出来の善し悪しではない。これがなければ今の自分はないのだから。だからこそ恨みつらみは一杯ある。これがなければ私はもっと真面目でイナセな好青年になっていただろうし、恋多き学生時代を過ごしてまっとうな就職をし、まっとうな家庭を作ってまっとうに人生を終えただろう。特に学生時代の恨みは重い。そんな作品。


PROFILE
山本 寛(やまもと・ゆたか)
1974年生まれ。アニメーション演出家、映画監督。『涼宮ハルヒの憂鬱』のエンディングダンス、『らき☆すた』のオープニングダンスの仕掛け人としても著名。現在、初の実写映画監督作『私の優しくない先輩』が公開中。


『借りぐらしのアリエッティ』
公開中

『私の優しくない先輩』
公開中

 

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借りぐらしのアリエッティ
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